第6章では以下の点について学んでいきます。
- 人材の育成の重要性
- 人材育成に役立つ考え方
- 人材育成の手順
- 人材を育成するための様々な手法
- 人事考課とは
- 部下を評価する際のポイント
- 評価結果のフィードバック
人材の育成の重要性
ここでは、以下2点について解説していく。
- 人材育成の目的
- 人材育成の意味
人材育成の目的
人材育成は、人事部門が考えればよいというものではなく、部下を持つすべてのマネジャーが常に意識するべき重要な役割の1つである。
企業は、組織全体として定めた人事・教育体系に従って集合研修などを実施し、人材育成に取り組む。
マネジャーは、企業全体の人材育成体系に従いつつ、自己のチームにおいては、部下に対する日常的なマネジメントを通じて、部下が継続的に業績を達成する力を持ち続け、時代の要求に対応できる価値を創造することができるように継続的に指導する。
人材育成の意味
部下を育成することは、一人ひとりの部下ができなかったことができるようになり、その結果新たな能力を身に着け、さらには、その能力領域を広げて式の分野にも対応できる実力を身につける人材を育てるということである。
部下が身につける能力には様々なものが考えられる。
例:担当業務に関連した新たな能力、未経験の業務に関する能力など
部下の育成とは、部下が業務に関して何らかの新しいことができるようにすることである。
人材育成に役立つ考え方
ここでは、人材育成に役立つ考え方を紹介していく。
コーチングとは
コーチングとは、人の能力を引き出す、指導するという意味であり、マネジャーが部下に対して行う人材育成の方法の1つである。
「コーチ(coach)」には「馬車などで運ぶ」という意味があり、そこから「導く」「指導」という意味に転じた。
コーチングの特色は、指導する部下の個性を尊重することと、自立性を育成することである。
コーチングとティーチングの違い
コーチングと類似する概念に「ティーチング」がある。
基本的には、経験のない新規の情報を習得させる場合に有効に機能する。
とくに、集団に対する画一的な知識共有を目指すときには比較的効率よく学習効果を期待できる。
一方、コーチングは部下の一人ひとりの個性を尊重し、持てる能力を引き出して、自律性を高めるという点を重視している。
基礎知識や新規情報の習得ができている部下に対して、より効果が発揮できる指導方法といえる。
どちらの指導方法が優れているかという問題ではなく、状況に応じて使い分けをすることが必要であり、その見極めも大切である。
コーチングスキル
コーチングスキルとは、マネジャーが、部下の個性を尊重し、部下の自立した力を発揮させることができるよう指導育成するための方法である。
スキルといっても、単純な技術的作業というイメージではなく、人と人のコミュニケーションを通して行う部下の能力向上のための指導であるため、マネジャーと部下の信頼関係を築くことが前提となる。
具体的には、以下のような点に留意して部下を指導する必要がある。
部下の話を聞く
部下がマネジャーと話をするときは、緊張しているケースが多いと考えられる。
その際、部下の話を途中で遮ったり、考えを否定したりすると、部下は自分を認めてくれないという感情を抱いてしまう。
マネジャーは、部下が安心感を持てる雰囲気で自由な思考で話せることが、自発的行動力の基礎になることを忘れてはならない。
部下に質問をする
部下が積極的に話してくれることは、コーチングの第一歩になる。
他方で、コーチングの目的は、自律的・自発的な行動の育成にある。
マネジャーは、部下に対して行動のヒントとなることがらを関連付けながら質問をしていくことが大切である。
例:部下の話が抽象的であればより具体的な質問を加える、自分の視点ではなく相手(取引先など)の立場になって考えさせるなど
質問の方法には以下のようなものがある。
- 紋切り型の質問(Closed Questions): Yes or Noで答えられる質問
- オープン型の質問(Open Question): 「〇〇について、どのような方法が考えられるか?」というような質問
部下の自立性の育成という観点からは、可能な限り部下自ら考えて答える要素の多いオープン型の質問をすることが大切である。
また、部下の話が抽象的であったり、要領よく説明できないで行き詰まったりしたときは、より具体性のある説明を促すために「チャンキング(Chunking)」という手法を用いることも効果的である。
例えば、具体性のある話を導くために、状況説明に必要な要素である5W1Hに、How many(数量)、How much(費用)を加えた5W3Hを適宜質問の中に入れてチャンクダウンをすることが有効である。
反対に、部下の説明が細部にこだわりすぎて、全体像が把握できないときは、話の内容をまとめさせたり、意見の目的・目標を確認したりする質問によりチャンクアップをすると説明の全体像を把握しやすくなる。
部下の行動進化や成果を認める
部下の自立性に力を与えるためには、部下の行動に改善や進化があればそれを認めることが必要である。
部下は、自発的な行動をとる反面、マネジャーは、自分のことをどう評価しているかを絶えず気にしている。
このような部下の成長を認めることをAcknowledgement(承認)という。
マネジャーの承認行動をエネルギーとして、部下の自律的行動力が促進することを期待できるようになる。
1 on 1 ミーティング
部下の育成やモチベーションの向上に有効な手法の1つに、「1 on 1 ミーティング」がある。
1 on 1 ミーティングは、部下の人材育成を目的として、1週間に1回~1か月に1回など、定期的にマネジャーと部下が1対1で行う個人面談で、次のような特徴がある。
- 部下が自らの課題等の現状についてマネジャーに自分の考えを伝え、これに対しマネジャーがアドバイスをする。次回の面談までに行う具体的な行動等を定め、次回の面談で当該行動等のレビューを行うといったステップを複数回にわかって繰り返して行う。これにより、部下の成長やマネジャーと部下との間の信頼関係の醸成が期待できる。
- マネジャーが聞き役となり、部下が、自身の直面している課題の解決や部下自身のキャリア等についての目標達成のためにその考えを話すことで進められる。
- マネジャーの役割は、部下の課題解決や目標の達成などを支援することである。
- マネジャーが部下にアドバイスをする際には、部下に現状の課題の解決策を考えさせることが重要である。
1 on 1 ミーティングを実施した後、次のミーティングまで長期間が空くと良い効果が期待できない可能性がある。
日程を決める際は、その実施頻度に注意することが必要である。
1 on 1 ミーティングでは、部下の行動に対する改善点や評価を伝えて軌道修正を促す「フィードバック」が重要である。
フィードバックでは、部下にとって耳が痛いことであっても、部下に、自らとった行動が失敗であったことを認識させたり、部下の行動が周囲の者にはどのように映るかを率直に伝える。
適切なフィードバックによって部下の成長につなげることが重要である。
人材育成の手順
マネジャーは、人材育成の目的や意味を十分に理解し、その重要性を認識した上で、部下の育成に努めなければならない。
マネジャーは、上司と部下という関係にある間、可能な限り時間とエネルギーを割いて、コーチングやティーチングなどのスキルを使って部下の能力向上に向けた活動を実施すべきである。
ただし、マネジャーが実際に部下を育てるにあたっては、育てる技術だけでなく、「育てようとする意識」が重要である。
具体的にどのような点に注意し部下を育てればよいか、その手順を紹介していく。
部下が成長しやすい環境をつくる
部下が成長しやすい環境をつくることによって、自発的に成長させることが重要である。
人間の本来持つ自ら伸びる力を支援し、障害を取り除いてその力を最大限に引き出すことによって、部下は成長する。
部下を育成するには、育成するための環境条件を整え、その環境の下で人を変化成長させることが必要である。
マネジャーが人材育成に必要な環境条件を整える上で注意すべきことは、以下の点である。
- 業務の習熟度によって、仕事の内容をステップアップしていくこと
- 状況により、チーム内での担当替えによって、全面的に未経験の仕事を与えて、業務能力の拡大化を図ること
- 部内の仕事に習熟した部下を他部署へ異動させ、さらに未経験の仕事につかせてその成長を図ること
指導にあたって、最初に注意すべきこと
マネジャーは、まず自分自身の部下の育成方法に問題点がないかどうかを点検し、問題点があれば是正をしていく必要がある。
部下を望ましい方向に成長させるには、まず自分が部下に望む姿を自分で実際にやって見せることが必要である。
マネジャーが部下を育成するにあたっては、次のような問題点がないかを確認する。
- 部下に対する指示内容が細部にわたりすぎて、部下の考える余地を奪っていないか
- いつも同じレベルの仕事を与えるだけで、部下の新しい能力の開発を妨げていないか
- 部下が、問題のある考え方や、間違った作業をしているにもかかわらず、適切なアドバイスや注意をしないで放置していないか
- モチベーションを高める動機づけをしないで、部下の意欲を失わせていないか
部下が自主的に考え行動できるように支援する
ここでは、部下が自主的に考えて行動できるように、マネジャーはどう支援していくべきかについて解説していく。
部下が自ら目標を設定するように促す
マネジャーは、部下に対して、業務に取り掛かる際には必ず部下自身がその目標を設定するように指導する。
部下が主体的に、自主的に業務をこなすことは、仕事の習熟度を高め、習熟の加速が期待できる。
また、自己管理意識に目覚めた部下は、次第に視野が広がり、チーム全体の業務を見渡せるようになる。
仕事の成果を「見える」化する
部下が主体的に仕事に取り組めるようにするためには、部下が自分の仕事の成果や状況を判断できる工夫が必要である。
そのための方法が、仕事の「見える化」である。
例:営業部門の担当者が顧客訪問回数、成約件数や売り上げなど、仕事の成果を数値化して確認しやすくしておく
上記の例は確認がしやすいが、そうでない仕事もある。
そのような場合にはマネジャーが意識して部下の仕事を「見える化」する必要がある。
例:達成項目の優先順位を基準にして、業務内容を図表で表し、進捗状況をビジュアル的にイメージしやすい工夫をすることなど
部下が主体的に仕事をするように促すことが目的なので、厳密に定義するよりも、直感的に達成度がわかるように工夫するとよい。
このような「見える化」は、最初はマネジャーが主導して行うこともよいが、最終的には部下が自ら成果を「見える化」して仕事を改善することができるように指導するべきである。
部下の目標達成をともに喜ぶ
部下に達成感を得させることは、主体性を育む上で非常に重要である。
したがって、マネジャーは、部下に達成感を感じられるように仕事を組み立てて分配することが大切である。
しかし業務の内容は一般には複雑なものが多く、業務をいくつかのプロセスに分けて、プロセスの一部分を部下に分担させることが多くなる。
このような場合、マネジャーは、プロセスの一部分の業務を行う部下に対して仕事の全体像を示しながら、部下の仕事が全体のどこに位置づけられるかを伝える必要がある。
また、すべての部下に、担当した業務に対して、個別に適切な支援を行って、仕事を達成する喜びを感じさせることが望ましい。
マネジャーは部下の仕事がうまくいけば部下と一緒にそれを喜び、部下の努力をほめる習慣を身につける必要がある。
さらに、ほめるだけでなく業務の折を見て部下とともにその都度反省を兼ねた検討を行うことも重要である。
部下の経験・立場に対応した人材育成
部下の育成は、部下一人ひとりが別の人格である以上、異なるものとならざるを得ない。
また、部下の職務経験の多少や成長の段階に応じて異なるアプローチが必要である。
初任の部下(新入社員等)に対する指導
マネジャーは、配属された新入社員を職場に適応させるとともに、1つずつ仕事を教えていき、仕事に自信をつけさせていくことが重要である。
そのため、マネジャー自身または教育担当である先輩社員が実際に部下の前で「やってみせる」ということが基本的なアプローチ方法となる。
仕事を全く知らない新入社員を育成する場合には、次のような手順で業務上必要な知識、技能を習得させる。
- マネジャーがその仕事をやって見せ、部下の質問に答え
- 次に部下にやらせてみて
- その結果について誤りや改善点等をコメントし
- 遺漏なくできるようになるまで2. 3を繰り返す
仕事のやり方を教えるだけでは仕事への動機づけにつなげられないが、仕事の工夫や改善を経験させることによって仕事の面白さを知り、仕事に対する動機づけにもつながる。
一定の業務経験を有する部下に対する指導
一定の業務経験を経ている部下を育成する際のポイントは、あらゆることを懇切丁寧に教えるのではなく、重要なポイントを教え、そのあとは部下を信頼して任せるようにすることである。
任せる育成方法のポイントは以下のとおりである。
- 目標を明確にする
- 目標を達成するための方法は任せる
- 必要に応じて支援し、成功させる
順番に解説していく。
目標を明確にする
部下は、仕事を任せることにより自ら学ぶようになり、未経験の仕事の積極的に取り組み、自然に力をつけていく。
部下に仕事を任せるにはまず部下が到達すべき目標を明確にしておかなければならない。
目標を達成するための方法は任せる
任せるとは、方法を任せるということであり、これが部下の成長を加速する。
ただし、任せることと時間内に目標を達成することのバランスには注意が必要である。
このバランスをとるには、部下の能力をよく見て任せられる範囲を測り、過重とならない程度の仕事量となるように調整する。
必要に応じて部下を支援し、成功させる
マネジャーは、部下による業務の遂行状況を判断して、必要な支援を考え、実行することが大切である。
状況に対応した適切な支援を行うことにより、部下に成功体験を積ませ、自信をつけさせることは、部下を育成していく上で重要なポイントとなる。
中堅クラスの部下に対する指導
ある程度仕事の基本動作が身に付き、ルーティンワークであればマネジャーが支援しなくてもこなせる段階にある中堅クラスの部下に対しても、その技術力や自信には敬意を払いつつ、育成指導していく必要がある。
ただし、次のような対応をする部下には特別の配慮が必要となる。
まず「できない」理由を探すタイプの部下
新規事業を企画する場面や従来の業務のやり方を変えて改善しなければならない場面において、「できる」ことよりも「できない」理由をまず探そうとするタイプの部下。
ルーティンワークとは異なる業務を依頼しようとしても、すぐに「できません」というタイプも同様である。
企業として存続するためには、新規事業を立ち上げることは必要不可欠である。
また、従来の方法を連綿と続けるのみでは新しい価値の創造というレベルには達することができない。
そのため、第1章第3節「マネジャー自信をマネジメントする具体的実践法」で紹介したように「Can I do it?」ではなく「How can I do it?」と自らに問う積極性が必要であることを、部下とのコミュニケーションを通じて理解させることが大切である。
まず「できない」理由を探すタイプの部下
新規事業を企画する場面や従来の業務のやり方を変えて改善しなければならない場面において、「できる」ことよりも「できない」理由をまず探そうとするタイプの部下。
ルーティンワークとは異なる業務を依頼しようとしても、すぐに「できません」というタイプも同様である。
企業として存続するためには、新規事業を立ち上げることは必要不可欠である。
また、従来の方法を連綿と続けるのみでは新しい価値の創造というレベルには達することができない。
そのため、「Can I do it?」ではなく「How can I do it?」と自らに問う積極性が必要であることを、部下とのコミュニケーションを通じて理解させることが大切である。
自ら考えることなくすぐに方法を他人に尋ねるタイプの部下
このようなタイプの部下から相談がきたときには、まずはその部下自身がどう考えるかを言わせるようにする。
このタイプの部下は、失敗することや他人から誤りを指摘されることを極端に嫌う性格であることがあり、なかなか自分の考えを口にしないかもしれない。
そのような部下が自身の考えを述べた場合には、いったんはその考えを肯定したうえで、よりよい対応策などを指導する。
いつでも自分が正しいと信じて疑わないタイプの部下
自説に固執しすぎて、他人の助言などを素直に受け入れないタイプの部下である。
独善的な姿勢では将来的に成長することは難しくなる。
このタイプの部下には、比較的難易度の高い、他人の助力がなければ進められないような仕事を担当させることも有用である。
また、必要に応じて2人だけで話せる場を設け、言うべきことをストレートに伝えることも必要である。
【番外編】周囲に悪影響を与える部下に対するマネジメント
周囲に悪影響を与える部下は、マネジメントの妨げとなる。
悪影響を与えるといってもいろいろなパターンが考えられる。
その代表的なパターンを1つずつ解説していく。
自己中心的な部下
攻撃的で、相手に対し敵意をむき出しにするタイプ。
このタイプの部下は、注意をしようとしても、自分は悪くないの一点張りの傾向がある。
何事にも斜に構える部下
いつも不満に満ち溢れており、何事にも消極的なタイプ。
たとえ注意をしても、ものごとの原因を他人や会社、あるいは社会のせいにして、何事も自分のことと考えない傾向がある。
人材を育成するための様々な手法
ここでは、人材を育成するための様々な手法について解説していく。
教育手法
具体的な人材育成の手法としては以下のようなものがある。
- 自己開発(自己啓発)
- OOF-JT(OFF the Hob Training)
- OJT(On the Job Training)
一つずつ解説していく。
自己開発(自己啓発)
自己開発(自己啓発)は従業員が自分の能力を高めるために業務外の時間を利用して自発的に行う能力開発のことで、自分への教育投資である。
業務に関連する読書や外部の教育機関のセミナー・通信講座の受講、e-ラーニングなど
自己啓発は、あくまでも従業員自身の自発性に基づいて行われる能力開発である。
企業は、資金補助等により側面から援助し、促進していくことになる。
OFF-JT(OFF the Job Training)
OFF-JTは主に企業の人事部門や教育部門、あるいは部門の教育主管部所が、共通の教育ニーズを持つ従業員に対して行う教育訓練である。
共通して必要となる基本的な知識・技能や、職場では学ぶことが困難な知識・技能について、対象者を集めて行う人材育成手法。
階層や職能別の集合教育によって行われるのが一般的だが国内外への留学、他社見学なども含まれる
OFF-JTは、企業の内外の専門家から、OJTでは学べない、より広い知識や専門的な知識・技術の習得が可能となる。
OJT(On the Job Training)
OJTとは、職場内での教育訓練である。
職場の上司・先輩が部下・後輩に対して、職場での個々の仕事を通して必要な知識・技能・能力などを指導し育成すること
OJTでは、例えば顧客からのクレーム対応など、業務マニュアルでは解決できない問題が生じた場合にどのように対処すればよいかを習得させることが狙いである。
OJTは、職場内において実際に業務を進めながら実施される教育訓練である。
そのため、適切な方法で行えば、効果的な部下の育成方法の1つとなる。
OJTの実施方法
OJTには以下3つの実施方法があり、マネジャーは部下の性格や担当させる業務の内容に応じて適切な方法を選択する必要がある。
- 個別指導
- 日常のマネジメントを通じたOJT
- 自ら模範を示す
順番に解説していく。
個別指導(狭義のOJT)
マネジャーが、部下の一人ひとりに指導する形態のOJTである。
個別指導によるOJTを通じて、一人ひとりの部下に直接業務のコツなどマニュアル化したいノウハウを伝授したり、部下が失敗すればその場でそれを正すことができる。
日常のマネジメントを通じたOJT
マネジャーは、業務での部下との接触は、すべて部下育成の場であると考えるべきである。
マネジメントを進めることは部下を指導することを内包している。
OJTは、業務を遂行することそのものが部下の成長を促し能力の伸長につながる活動であるということができ、マネジャーにとっては、部下を管理することそれ自体に教育訓練という側面が含まれている。
自ら模範を示す
部下の指導にあたって、マネジャー自ら模範を示すという方法がある。
意識して模範を示さずとも、部下は、日常的にマネジャーの仕事ぶりを見て、具体的な業務の進め方などを学習していくものである。
また、マネジャーが仕事で失敗したときは、失敗をいかにリカバーするかが重要であることを部下に指導するよい機会と捉えるべきである。
人事考課とは
人事考課は、人事評価、勤務評定、能力効果と呼ばれることもある。
一般に、1年間や半年・四半期ごとに、従業員の業務遂行能力や仕事に対する取り組み姿勢、勤務態度や成果を日常の職務活動を通じて観察し、分析・判定を行うことをいう。
人事考課は、部下にとっては自分が評価の対象とされるものであり心理的な不安がある。
しかし同時に、人事考課はマネジャーにとっても部下を評価しなければならない点で気が重いものである。
また、評価を一般的に数値化できない部門のマネジャーの方が、部下の評価は難しいものになる。
人事考課の目的には、昇格・昇給・賞与の「査定」があるが、部下にとっては、人事考課の不満がモチベーションの低下につながることがある。
しかし、反面、適正な評価による部下の納得感の高い人事考課のフィードバックが行われれば、部下のモチベーションを高めることも可能となる。
人事考課は、会社によって様々な方法・制度がある。
マネジャーは、会社によって決められた人事考課制度に従って部下を評価する必要がある。
以降はどのような人事考課制度を採用しているかにかかわらず、マネジャーが部下を評価するにあたって注意しなければならないこと、陥りやすいことを中心に解説していく。
部下を評価する際のポイント
どのような人事考課制度であるかにかかわらず、マネジャーが部下を評価する際に注意すべきポイントは次の通りである。
- 評価基準をあらかじめ明示する
- 部下の評価に予断は禁物
- 部下の評価は、第一印象だけで判断しない
- リモートワーク時における部下の評価
順番に解説していく。
評価基準をあらかじめ明示する
部下が目標達成に向けて邁進するために、何が求められる行動化を示す「評価基準」を明確化することは、部下の納得を得るために必要である。
評価基準を明確化する場合には、すべての部下にその内容を理解させておく必要がある。
そうすることで部下はなすべき行動が明確になるとともに、自己の評価についてマネジャーからフィードバックされた際に、評価の根拠に対する納得性が高まる。
高い業績を上げるための行動を明示し、そのような行動がみられるかどうかを評価する「コンピテンシー(Competency)」という手法が用いられることがある。
こうした特徴的な行動を具体的に拾い上げ・分析し、それを集積したものを、その企業あるいは職種の人事考課における行動基準や評価基準とするものである。
コンピテンシーは、企業・職種によっても異なるものであり、各々の目的や戦略との整合性を図りながら設定する必要がある。
コンピテンシーの手法を用いると、部下を評価するための具体的行動が明示されるため、部下としては、仕事をする上で、具体的にどのような行動をとればよいか明確にイメージできる。
部下の評価に予断は禁物
マネジャーには、自分のチームに属する部下の能力や技量、正確についての情報や評価が必要となる。
新たに自己のチームに部下が配属される場合や、新しいプロジェクトチームの人選にあたってはとくに気になるところである。
人事記録や部下の同僚、元上司などから評価資料を入手できたとしても、それは1つの資料であって、確定した評価と考えるべきではない。
特に、前任者の、その部下に対する評価が著しく低い場合や、逆に高い場合は、慎重かつ冷静に部下の評価をしなければならない。
極端な評価の場合は、評価者自身にも問題があることが多いのが実情である。
例:性格上の不一致や、個人的な癒着を前提とした評価など
したがって、まずはマネジャー自身の目で、部下とコミュニケーションを図っていく中で、部下に対する評価を積み上げていくことが大切である。
部下の評価は第一印象だけで判断しない
部下を評価する際は既存の資料だけではなく、自分の目で判断することが大切である。
ただし、マネジャーも個性を持った1人の人間であることに違いはない。
したがって、マネジャー自身の評価の仕方も、はたして客観的に、正確に部下を評価できているのかという疑問が残る。
そこでまず、部下を評価する上で気を付けなければならないのは、自分が部下に対して持った第一印象である。
第一印象には、どうしても自分の好みが反映されざるを得ない部分がある。
これは、人である以上、仕方のないことである。
この判断のバイアスを補正するには、部下の日々の仕事ぶり、同僚とのコミュニケーションの状況や、自分に対する業務報告のあげ方、話しぶり等を総合して判断すべきである。
リモートワーク時における部下の評価
リモートワークは、人材の確保が困難になりつつある現代の少子・高齢社会において、優秀な人材を確保する観点からも有用なスキームと考えられる。
その一方で、非対面の働き方であるリモートワークの問題点として、マネジャーが次のような点を把握しにくいといった側面が指摘されることがある中、企業として、人事評価を適切に実施する必要がある。
- 部下の勤務態度は良好化
- チームのほかのメンバーとの協調性
- 業務改善など、指示を受けた仕事以外の事項に主体的に取り組んでいるか、など
部下の評価をする際の基準として、仕事の量、目標の達成度など数値化できる定量評価と、業務に対する誠実さや熱意といった数値化・定量化が困難な定性評価がある。
リモートワークでは定量評価を重視せざるを得ないことが考えられるが、定性評価を軽視することは回避すべきであり、定量評価に偏重しないことが重要である。
定性評価を適切に実施するためには、1 on 1ミーティングを活用したり、部下とのコミュニケーションを高頻度(毎週あるいは2・3日おきなど)にとることが重要である。
また、「目標管理制度」(MBO (management by objectives)), Peter Drucker)の活用が考えられる。
目標管理制度:一般に、マネジャーと部下との間のコミュニケーションにおいて、組織の目標と部下自らが目指したい方向性をすり合わせ、部下一人ひとりの目標を決定し、その目標への到達までを管理するもの
マネジャーは、部下と目標を取り決めるにあたり、組織の目標と整合性のとれた目標を部下自身に立てさせる。
こうした手法などを用いることによって、定量評価・定性評価のいずれかに偏重しないような仕組みを整えることが大切である。
評価結果のフィードバック
マネジャーは、必要に応じて、評価結果を部下にフィードバックする。
フィードバックの目的は、部下本人に現状のレベルと、部下自身が成長のためにどのような課題を乗り越える必要があるかを認識させることにある。
マネジャーは、必要に応じて、評価結果を部下にフィードバックする。
人事考課の目的は、昇格・昇給・賞与などの査定だけでなく、人事考課により、経営資源である人材の能力等を分析し、それをマネジメントに活用することで企業の発展に寄与させることにある。
マネジャーは、人事考課を日々の機械的なルーティンワークの一部と捉えるのではなく、この目的を明確に理解し、「部下の育成」や「能力開発」の有用なツールとして人事考課という仕組みを活用する意識を持って取り組むことが重要である。
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