第2章 マネジャー自身のマネジメント

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第2章では以下の点について学んでいきます。

  • マネジャー自身のマネジメント
  • 経験からの学び
  • マネジャー自信をマネジメントする具体的方法

マネジャー自身のマネジメント

マネジャーは、部下をマネジメントする以前に、まず自己管理ができなければならない。

マネジャーは、チームの目標のほかに、自分自身が達成すべき目標を設定し、その目標に照らして自らの仕事ぶりと成果をたえず客観視し、自分自身に必要な修正や調整をする必要がある。

つまりマネジャーが自己管理をするには、自分の能力や修正すべき行動等を客観的に評価できる能力を身に着ける必要がある。

マネジャークラスになると、チームメンバーや周囲の人々も短所や修正すべき点を直言しづらいのが現実である。

そのため、周りからの評判を鵜吞みにせず、常に自己を客観的に判断する姿勢が必要となる。

マネジャーがどれだけ自分のことをチームメンバーに開示してその理解を得ているかを分析する手法として「ジョハリの窓」がある。

ジョハリの窓とは、アメリカの心理学者であるジョセフ・ルフトとハリー・インガムにより公表された「対人関係における気付きのグラフモデル」のことである。

ジョハリの窓の図解

部下や上司との関係において、①の開放の領域が広ければ広いほど、自己開示が進んでいるとみることができる。

②の盲点の領域においては、自己を省みたり、他人に尋ねて自己の行動にフィードバックしたりすれば誤解やトラブルを避けることができる。

③の秘密の領域においては必要に応じて自己を理解してもらえるようにコミュニケーションを図っていく。

④の未知の領域は、これまで意識されていなかった部分であるため、従来気づかずにいた才能などが発見されることがある。

マネジャーは、自分を理解してもらい、または部下を理解するために、ジョハリの窓を用いてお互いのことを開示しあうことも有効である。

具体的には、①の開放の領域を広げて③の秘密の領域を開放することが必要である。

このことを契機として、部下あるいは上司はこれまで以上にマネジャーのことを知るようになり、親近感や信頼感を抱くことにつながる。

また、マネジャーによる自己開示をきっかけに、部下あるいは上司がマネジャーをどう見ていたのかをフィードバックしてくれるようになり、マネジャー自身が気づかなかった②の盲点の領域を自覚するチャンスにもなる。

マネジャーは、②の指摘については真摯に受け止め、今後の行動の改善点とすることが大切である。

また、マネジャーの多くはいわゆるプレイング・マネジャーと呼ばれる、部下やチームのマネジメントに加えて自ら業務を実施している場合が多い。

こうした中、マネジャーとしては、自身が行うべき仕事をいかに選別するかが重要である。

仕事の優先順位の付け方の図

上図は仕事のタイプを「重要度」と「緊急度」によって4つに大別したものである。

とくに新任のマネジャーは、往々にして「②急ぎではないが重要な仕事」よりも「③重要ではないが急ぎの仕事」を優先する傾向が見られる。

マネジャーは、③はなるべく部下に実施させ、自らそのような仕事に忙殺されることがないようにしなければならない。

上記を実現させるためには、部下への権限移譲が重要なポイントとなる。

以下の点に留意して部下に権限の委譲を行うことが望ましい。

  1. 部下を信頼して、自分の業務を委ねるという姿勢を持つ
  2. 部下の育成という観点を忘れない
  3. 委譲した業務も、最終的には自分の責任の範囲と自覚する
  4. 部下の技量を考えて、委譲した業務の報告を適宜求める

マネジャーは、業務を展開する中で、様々なストレスにさらされている。

過度なストレスは心身の不調をきたすことがあるが、適度なストレスは生産性の向上につながることがある。

したがって、重要なのはストレスについて正確に理解し、適切に対処することである。

カナダの生理学者であるハンス・セリエによればストレスとは外部環境からの刺激によって起こる歪みに対応しようとする一般的反応を指す。

そして、ストレスを引き起こす外部環境からの刺激をストレス要因(ストレッサー)という。

以下の通り良いストレス(eustress)悪いストレス(distress)があるとされている。

良いストレス:入浴や熟睡、軽い飲酒などの適度な刺激や、達成感・充実感といった自己のやる気を奮い立たせる刺激や状態

悪いストレス:厳しい寒さや暑さ、不眠といった心身に悪影響を及ぼす刺激や、業務の失敗などの刺激・状態

ただし、ストレスの中には、良いストレスと悪いストレスのどちらになりうるものもある。

例えば仕事のノルマなどは、人によって、目指すべき目標として良いストレスになったり、過度な負担として悪いストレスとなったりする。

ハリスが生物学の観点からストレスを説明したのに対し、アメリカの心理学者であるリチャード・ラザルスは心理学の観点からストレスを捉えている(認知評価モデル)。

まず、ストレッサーにさらされた人は、ストレッサーをどのように評価するかという段階を経る(第一次評価)

ここでは、ストレッサーを自分と無関係であるか、無害もしくは肯定的なものであるか、またはストレスフル(stressful: ストレスが強い)かが評価される。

ストレッサーがストレスフルであると評価された場合に、二次的評価としてストレス対処行動の選択がなされる。

このように、ストレスに対処する行動をコーピング(coping)という。

コーピングの種類

・問題集点型(problem-focused):ストレッサーである問題そのものの解決を目指す

・情動焦点型(emotion-focused):ストレッサーそのものではなくそれによって生じるストレス反応をコントロールしようとする

コーピングの具体例

  1. リラクセーション:交感神経の興奮を抑制し、副交感神経の働きが優位になっている状態。一般にくつろいだ状態にするための活動や行動。
    ゆっくりとした腹式呼吸、ウォーキング、ジョギング、水泳、アロマテラピーなど
  2. 認知行動療法:ストレス等で生じる思考・感情のゆがみや偏った考え方や行動等の認知を、合理的な思考や行動に置き換えることにより行う治療法。
    ストレスで抑うつ状態に陥った時に頭に浮かぶ考え方(自動思考)と現実とのギャップを確認した上で、現実的でバランスのとれた考えに変えていく。
  3. 適切なコミュニケーション:対人関係は職場におけるストレス要因である。対人関係を円滑にするために適切なコミュニケーションを心がけることは最も重要なコーピングのひとつ。

経験からの学び

マネジャーの成長は、その多くが日常の業務を通じた経験(業務経験)から生まれる。

この業務経験を通じて、諸先輩が構築してきたノウハウや自分では思いつかなかったアイデア、あるいは自分の規格の失敗等に接することが可能となり、それを自分自身の分析力や企画力、そして行動力として身に着けることができる。

しかし、「経験することが自然と自分の成長につながるわけではない」ということがポイントである。

ただ漠然と業務をこなすのではなく、いかに経験を学習に変えられるかがマネジャーとして成長できるかどうかの差につながる。

そのためには、自己を取り巻く環境を絶えず意識し、それを消化し自己を変革することが必要となる。

以下が経験からの学習プロセスである。

1. 経験の段階

経験からより多くのものを得るためには、些細な事象であっても疑問を感じ、その疑問について深く考察する姿勢が重要である。

「物事を多面的に見る」とも言い換えられる。

日々の仕事の中に、マネジャー自身の学びの素材は山のようにある。

それらを意識するだけで、自分の仕事の風景が違って見えてくるはずである。

2. 内省~教訓の段階

具体的な経験から自らを省みて(内省)、教訓を得るまでは、段階を踏んで行われる。

また、それぞれの段階において、その人の心理的な変化も作用する。

新任マネージャーAは、参入困難な新規市場での新商品の販売業務を任された。

強い不安を感じながらも、Aのチームは、新規市場において努力を重ね、ある新規顧客に自社製品を販売することに成功した。

しかし、商品管理部門との連絡が不十分であったことから、商品の納品が期日より遅れそうになった。

Aは今後、同様のミスが生じないようにするため、商品管理部門と打ち合わせをし、納品等に関して両部門間の連絡の取り方、担当者等を明確にした。

上記の例では、Aは一連の出来事から、商品を販売する際には他部門との調整も重要であるとの教訓を得たと言える。

このように、具体的な経験から教訓を得ることは、経験を自分の中に取り込み、深く意識化し、それを1つの意味のあるものに統合していくプロセスだと言える。

3. 得られた教訓を実行する段階

上記の例でAは、商品の納期を守るために商品管理部門と緊密に連絡を取ることが重要であるという教訓を得た。

しかし、ある出来事から得た教訓がどのような倍意にも活用できるというわけではない。

教訓による学習においては、強く確信するに至った教訓であっても、それにこだわりすぎずに「応用」していく姿勢が大切である。

このように業務の実行の中で、自分で得た教訓を当てはめたり、状況に応じて別の教訓へと転換したりすることを繰り返すことにより、マネジャー自身の学習のプロセスが発展していく。

マネジャー自信をマネジメントする具体的方法

すでに述べてきた通り、マネジメントをより質の高いものに変化させるには、マネジャー自身が成長する方法を学び、それを実践することが大切である。

ここでは、マネジャーの自己成長に結びつく「マネジャー自身のマネジメント」への取り組みの実践方法を紹介する。

例えば、マネジャーのあなたが、「マネジャー自身のマネジメントの方法があるけど挑戦してみないか」と言われたとき、心に思い浮かぶのは次のどちらに近いだろうか。

①Can I do it? 自分にできるだろうか?

②How can I do it? どうやったらできるだろうか?

①の「Can I do it?」と答えた人

このタイプの人は、何か新しい仕事や取り組みを与えられたときにまず「自分にできるかどうか」を考えてしまう人である。

・どちらかといえば、挑戦する前に、無意識のうちに自分の心にブレーキをかけてしまっている人

・自分の過去の体験領域から生まれてくる考え方

②の「How can I do it?」と答えた人

このタイプの人は、自分ができるかどうかという判断よりも、積極的に「どうやったら実施できるか」と考えられる人である。

・一見して実現が難しそうな仕事や課題も、視野を広げて幅広い選択肢の中から、実現可能な方法を探ることができる人

・自分の未体験領域への取り組みを積極的に目指していく考え方

したがって、How can I do it?の考え方を選択することは、まさしくマネジャー自身の成長への”挑戦”という取り組みにつながる

また、「メタ認知」で自分をコントロールし、自らの成長を促すことも重要である。

メタ認知:ジョン・フラベルが初めて使用した用語。自分が行っている認知活動(思考、近く、言動、情動、記憶など)を、自分自身が客観的に把握し、これを評価したうえで、自分の活動をコントロールすること

マネジャーは、自分が認知していることを客観的に捉え、自分自身を冷静に理解することにより、事故の能力や不足している点、改善すべき点を知ることができ、これによって自己の課題を適切に設定するのに役立てることができる。

メタ認知は、「メタ認知的知識」「メタ認知的活動」から構成される。

メタ認知的知識

メタ認知的知識は、次の3つの知識をその要素としている。

メタ認知的知識についての図解

ⅰ)の「人間の認知特性」にかかわる知識は、自分自身や周囲の他社、人間一般の認知の特性に関連した知識である。

たとえば、「自分は先入観に流されやすい」ということを知っていれば、物事を判断する際に「先入観にとらわれていないか」「この判断は客観的な情報に基づいているか」と考えることができる。

この知識を持つことにより、短所に注意したり、長所でカバーすることが可能になる。

ⅱ)の「課題」について、「何を要求しているのか」「本質は何か」といった知識を持つことにより、その課題に適切に対応することができる。

ⅲ)の「課題解決のための方略」にかかわる知識を持ち課題に取り組むことで、より多くの成果を上げることが可能となる。

メタ認知的活動

上述の通り、メタ認知的知識は重要な要素であるが、知識だけでは不十分である。

メタ認知を働かせるためには、その知識を持ったうえで、現在の自分自身を確認し、必要な対策を講じるという活動(メタ認知的活動)が必要である。

メタ認知的活動は、次の2つの要素で構成される。

メタ認知的行動についての図解

メタ認知は、与えられた仕事と自分の能力とを検討し、どのような行動をとればよいかを適切に判断したり、目標を達成するために取り組むべき課題を選定しその達成手順を適切に設定したりする場面で機能する。

このメタ認知能力を向上させるポイントとして次の点が考えられる。

  1. 自己の知識の有無を選別すること:「自分が知らないこと」が何かを知ることで、何を学べばよいかが分かる
  2. 自己の能力レベルや範囲を知ること:どのような能力があり、どの程度の実力かを知る。自分で処理できるか、第三者に委託するか、学習のレベルを上げるための努力が必要か、などが分かる
  3. 自己の欲求の内容を判断する:自分の欲求内容を知れば、欲求内容に沿った提案を根拠なく受け入れてしまう危険性が分かる。そのため、自己の判断や行動をコントロールする契機となる
  4. 自己の行動評価をする:自分のとった行動の正誤や当否が分かる。事故の行動を客観視することで、次の行動の改善点が見えてくる

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