第15章では以下の点について学んでいきます。
- 感染症に関するリスク
- 事件・事故に関するリスク
- 自然災害に関するリスク
感染症に関するリスク
ここでは、感染症に関するリスクについて解説していく。
職場で新型インフルエンザ等の感染症が発生
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律6条7項では、同法の定める新型インフルエンザや新型コロナウイルス感染症等について、新たに人から人に伝染する能力を有することとなったウイルスを病原体とする感染症であって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速な蔓延により国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあるとしている。
これらの感染症は、その免疫を獲得している人がほとんどいないため、容易かつ急速に、人から人へ爆発的感染拡大(パンデミック)を引き起こす危険性がある。
パンデミックの発生により、次のような社会への影響が懸念される。
- 膨大な数の患者に医療機関が対応しきれなくなる(医療サービス供給の破綻)
- 国民生活(食料品・生活必需品等)や社会機能(電気・水道・通信・交通など)の維持に必要な人材の確保が困難になる
- 社会不安による精神的苦痛、治安の悪化など
また、企業活動に関しては、パンデミック時に次のようなリスクが想定される。
- 取引先との契約に基づく業務の遂行不能による損害賠償責任
- 自社の業務により取引先や顧客を感染させるリスク
- パンデミック時において業務を継続した結果、従業員が感染するリスク
新型インフルエンザ等感染症のウイルスは、人から人への感染力が強く、組織内に感染者が1人でもいれば、免疫を持たない者に瞬く間に感染が拡大するため、早急な対応が求められる。
従業員やその家族に感染が認められる場合の組織としてとるべき対応策をあらかじめ定め、すべての役員及び従業員に周知徹底させておくことが大切である。
新型インフルエンザ等の感染症を発症した従業員の休業について
マネジャーは、部下が新型インフルエンザ等感染症の症状を訴えた場合、その者を別室等に移動させ、ほかの従業員や顧客への二次感染のリスクを回避する観点から、他者との接触を防がなければならない。
その上で、保健所等に、現在の症状を連絡し、対応について指示を受ける。
従業員が新型インフルエンザ等に感染した場合、組織は、法律上、その者の就業を禁止しなければならなくなることがある(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律18条2項)。
なお、発生している新型インフルエンザ等感染症が、法律による就業制限・就業禁止の措置の対象となるかについては、その時点において厚生労働省が発する情報等に基づいて判断する。
新型インフルエンザ等感染症に感染した従業員を、法令等に基づき休業させる場合、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」には当たらないと考えられるので、休業手当を支払う必要はない。
感染が疑わしい部下がいる場合の対応
部下が発熱、頭痛、関節痛など、新型インフルエンザ等感染症と類似の症状を訴え、感染が疑われる場合は、まず保健所に連絡を取り、その対応について、保健所の指示を仰ぐ必要がある。
これは、保健所の指示によらずに、勝手な判断に基づき医療機関で受診することによる二次感染の発生を防止するためである。
なお、感染が疑われる段階で、部下が自らの判断で仕事を休む場合は、通常の病欠と同様に、組織に賃金の支払い義務は生じない。
同居の雅俗が新型インフルエンザ等感染症に感染した部下への対応
部下と同居している家族に新型インフルエンザ等感染症の発症が確認された場合、その部下自身が保健所に連絡して指示を受ける。
濃厚接触の可能性が高いと判断され、保健所から外出の自粛等を要請された場合、その部下を出社させてはならない。
自宅待機等の期間が経過した後も発症しなかった場合、保健所の意見を踏まえ、出社の可否を検討する。
二次感染を防止するための対応
新型インフルエンザ等感染症を発症した部下が使用した机や触れた場所、滞在した場所の周辺の床については、消毒剤を用いて拭き取り清掃を行う。
そのほか周囲への接触感染防止の観点から、とくに、人が多く触れる場所(机、ドアノブ、電話機、階段の手すり、エレベーターの押しボタン、トイレの流水レバー、便座等)の拭き取り清掃を念入りに行う必要がある。
1日に1回以上行い、消毒や清掃を行った時間を記入・掲示するとよい。
感染防止策の実施
職場における感染防止策として次のようなものが考えられる。
- 来訪者による職場への入場制限
- 通勤ラッシュ時の混雑を回避するための時差出勤や自家用車・自転車による出勤の推進
- 出勤時の体温測定
- 勤務スペースのレイアウト変更による対人距離(2メートル以上)の確保
- 在宅勤務など
職場内での発症が収束した後の対応
職場内で発症した新型インフルエンザ等感染症が収束した後であっても、ウイルスは常に変異を繰り返しており、収束した感染症とは異なる型の感染症がパンデミックを引き起こす危険性がある。
そのため、マネジャーは、新たなパンデミックに備え、感染予防策に万全を期するほか、発症することにより部下が休まざるを得なくなった場合、残った者で業務を継続できる体制を整える必要がある。
その一方で、不要不急の事業については、縮小・休止などにより、感染拡大防止等を図ることが望ましいとされている。
業務の継続に必要な人材の確保
新型インフルエンザ等感染症の発生時においては、複数の部下が出社できない状況に陥ることがある。
さらに、物品の輸出入が制約されることにより、原材料や物資の不足といった事態も想定される。
感染拡大の初期段階において、感染者が発生した場合、その濃厚接触者があるものについて、保健所による外出自粛要請がなされる可能性がある。
このため、新型インフルエンザ等感染症が発生した際には、複数名の部下が一定の期間出社不能になるので、事業継続に必要な資源としての「人」の確保が困難となることが想定される。
新型インフルエンザ等感染症発生の非常事態下において、業務の継続に必要なマンパワー(人数ではなく、業務遂行に必要なアビリティ)を確保するためには、平時から準備・訓練をしておくことが重要である。
そのための具体策として、例えば、在宅kンむの採用、複数班による交代勤務、クロストレーニング(後述)、意思決定者が感染した場合に備えた代行者の指名などが考えられる。
在宅勤務の実施
部下が自宅で業務を行う在宅勤務は、ほかの部下等との接触機会が少ないため、組織内での感染の拡大を防止できる。
この場合、機密情報が漏洩しないよう十分なセキュリティ対策を講じる必要がある。
また、労務管理上は、労働時間の把握と人事考課をどのように運用するかも問題となるので、あらかじめ、在宅勤務の規定を整備しておく必要がある。
平時に在宅勤務を試行しておくことにより、システムの稼働状態、通信トラブルや機器操作上の問題点などが明らかになるため、リスク発生時に在宅勤務体制へスムーズに移行することができる。
複数班による交代勤務
部下を複数の班に分け、各班を一定期間ごとに勤務班と自宅待機班で交代勤務を行うことにより、従業員の大量感染の可能性を低減できる。
クロストレーニング
1人の従業員が複数の重要業務を遂行できるように日ごろから訓練しておくことにより、万一、重要業務の遂行を担当する部下が新型インフルエンザ等感染症に感染した場合でも、代替要員としてその重要業務を遂行できる。
意思決定者が感染した場合に備えた代行者の指名
マネジャーは、自らが新型インフルエンザ等感染症に感染し就労が不能となった場合を想定し、自分の代わりにチームとしての意思決定を行うことができる者を選定し、普段から訓練・コミュニケーションを行っておくことが大切である。
事件・事故に関するリスク
ここでは、事件・事故に関するリスクについて解説していく。
施設における事故
事業用施設の中には、危険物、有毒・有害物質、バイオ関連物質等を取り扱うものがある。
管理の不備や自然災害などが原因で事故が生じた場合、施設が一定期間使用不能となり事業の継続が困難となる恐れがある。
また、このような施設で発生した事故により従業員や第三者に損害が生じた場合、これを賠償する責任を負うおそれがある。
さらに、事故がマスコミの報道などにより公になった場合、とくに第三者に死傷者が出たようなときには、組織のイメージを損なうおそれもある。
負傷者の救護
負傷者がいる場合には、速やかに救急車の出動を要請するとともに、現場から安全な場所まで離し、応急処置を施す。
この際、有害物質などが周辺に飛散したり、あるいは要救助者の衣服に付着したりしている可能性があれば、二次的な被災を防止するため、必要に応じてマスクや防護服を着用するなどの防御を行う。
有害物質による中毒等の場合には、迅速な解毒剤の投与が必要となることがあるため、法令の定めに従って、一定量を施設に備え付けておくべきである。
二次災害の防止措置
事故現場に第三者等が近づかないようにロープ等でエリア分けを行うとともに、危険物質等の供給バルブを閉めたり、砂や水を散布したりするなどの方法で、危険物質によるさらなる災害の発生を防ぐ。
この際、例えば消化しようと水をかけると爆発するような物質もあるため、防止措置は必ず防火責任者の指示の下で行われるようにする必要がある。
行政機関への通報
必要に応じ、警察・消防等に通報するのは当然のことである。
この他に、消防法や高圧ガス保安法など、各種の法令等により関係機関への届出が義務付けられている場合には、その定めに従い、所定の届出を行わなければならない。
研究・開発設備の復旧
事業を早期に再開し、通常の体制に戻すためには、一刻も早い施設の復旧が必要となる。
事業用施設は、しばしば機器等の納入・復旧に時間がかかるため、なるべく早い段階において修理依頼や新規発注を行う必要がある。
納入までの間は、同様の機器を保有している企業・学術機関等に依頼して、当該機器が稼働していない時期に利用させてもらうなど、あらゆる手段を検討すべきである。
情報の公開
事業用施設はどのようなことを行っているかが公表されていないものがあり、施設で事故が発生したことを聞いた周辺住民は不安になる。
そのような不安を取り除くためには、事故の概要や安全性についての情報公開を、早い段階から行っておくことが望ましいといえる。
この一連の流れの中で不手際があったり、不正確な情報が流れたりすると、周辺住民の感情が悪化し、場合によっては反対運動などに発展することもあり得る。
また、自社の株主にとっても、施設の被害状況や回復の見通し等は、会社の将来性、ひいては株主が所有する自社の株式の価値に影響するため、非常に高い関心を寄せているところであり、このような面からも情報の公開を適宜行う必要があるといえる。
緊急時体制の構築、マニュアルの作成、訓練
事故等の発生時に誰が指揮をとり、どのような体制で事態の収拾にあたるのかということを事前に定めて置き、実際にそのような事態が発生した場合にはそれに従って行動できるようにしておく必要がある。
法令において、平常時及び緊急時の監督者等を選任して事前の届出をすることが求められている場合もあり、緊急時体制の構築にあたっては、これらの届出も怠らないようにしなければならない。
また、監督者等については、選任時の届け出のほか、人事異動に伴う変更があった際の届け出や、公衆の受講を義務付けられている場合もある。
施設の開設当初はこれらの義務をきちんと果たしていた企業であっても、時が経つにつれて届け出や受講を失念するケースがしばしば見受けられる。
これらを怠ると、組織や監督者等に罰則が適用されることもある。また、その間に事故が発生すれば、防災体制に不十分な面があったと評価される要因となり、組織が損害賠償責任を負うことにもなりかねない。
したがって、法令に基づく届け出や講習の受講を適正に行うよう徹底する必要がある。
策定した体制や初動対応については、マニュアルを作成し、施設にかかわる全員に配布する。
マニュアルの中には、当該施設において取り扱われている危険な物質や機械について、これらが存在していることおよび判別法や対処法を記載しておく。
このマニュアルは、判断不能な状況に陥ることを防ぎ、緊急事態における行動指針を与えるものである。
施設に勤務する者の中には、危険物質等に関する専門知識を有していないものもいるため、「知識や装備のない者には対応不能であるから危険物質等の漏洩等を発見しても速やかに現場を離れる」ことも1つの対処法である旨を記載しておくことは必須といえる。
そして、定期的に防災訓練を行い、施設にかかわる全員が、いざというときにマニュアルの内容を実践できるようにしておくことも必要である。
施設の整備
平常時の危険物質の管理体制に問題がなくても、大規模災害などによって事故等が発生するおそれもある。
そこで、事前に施設の防災対策を強化しておくことが必要である。
建物の耐震化、建物区画間の遮蔽扉や消火設備の設置、大型機器の転倒防止のための固定、危険物質の分散保管、禁水性物質の高所への移置等、様々なリスク要因を想定して対策を施しておく。
周辺への被害防止対策
施設周辺の住民や建物に対して被害を与えない対策も必要である。
被害防止対策として有効なのは、十分な敷地面積を確保するとともに、事故が発生した際に周辺に被害を及ぼす危険がある建物については、法令による設置基準があればそれに従い、ない場合でも敷地境界線からなるべく離して敷地の中央に設置することが望まれる。
空中を飛散するおそれのある物質については、建物の二重構造化などの対策が考えられる。
また、危険物質等が漏洩し、地下水を汚染した場合、一度発生してしまった汚染に対する有効な対策はなく、除去費用が高額に上ることが多いため、費用対効果という意味からも、事前の対策を行っておく必要がある。
貨物等運送物資に関する事故
貨物等運送物資に関する事故とは、委託を受けて輸送中または保管中の貨物が滅失・毀損または所在不明となる場合や、輸送手段の遮断等により予定期間内の輸送ができない場合など、貨物の所在地あるいは輸送経路において生じる事故をいう。
適切な保管場所の選定
自然災害に関する被害については、貨物を補完する施設の立地を適切に選定することにより、被災のリスクを大きく低減することができる。
新たに事業所を設置する場合には、地震、土砂崩れ、水害など、複数の場面を想定しながら候補地を検討する。
また、倉庫の設備や荷積みの方法など具体的な保管方法についても検討する。
労働火災の防止という点からもこのことは重要である。
引き受け時の貨物情報の収集
危険物や禁制品をそれと認識しないままに引き受けることは、トラブル発生時に損害を拡大させる原因となる。
したがって、引き受け時に書面に新木を記入させることは当然として、これとは別に危険物や禁制品を含まない旨の確認文言を設けてチェック欄を用意するなど手順を確立するとともに、担当者が確実に実行するよう重要性を説明し、教育を行う。
貨物情報へのアクセス手段の構築
貨物を取り扱う担当者が、適時に更新される貨物情報に必要に応じてアクセスできる態勢を構築することが重要である。
例えば、貨物の所在地に関する情報は、最新のものに更新されていなければ、緊急事態が発生したときに役に立たない。
他方、従業員による社内不正に利用される可能性もあるため、アクセス可能なものや利用方法については制限を設けることも必要である。
保険契約の締結
運送営業上発生させた損害を補償する保険は、各保険会社が様々な商品を用意しているので、リスク回避の方法としてこれらに加入しておくことは有効である。
貨物の現状の確認及び保全
現在、貨物がどのような状態にあるのかを確認するとともに、さらなる状況の悪化を防ぐために適切な措置を講じる。
このことは、後述する「事実経過の調査」のためにも必要である。
貨物の一部に被害が発生した場合、無償の貨物への被害の拡大を防止する必要がある。
被害が発生した直後においては、生じた損害を最終的に誰に負担させるかを明らかにすることよりも、まずは損害自体を最小限に食い止めることが重要である。
大規模災害等の場合には、災害が断続的に発生する可能性もあるため貨物所在地の安全性を確認した上で、例えば臨時に貨物を安全な場所に移すことなども検討する。
作業者の安全確保には細心の注意を払う。
また、特殊な保管方式を必要とする物品(冷蔵品等)については、停電や施設破壊が生じて必要な保管方式を維持できなければ、時間の経過により滅失・毀損を生じることがある。
したがって、貨物の状況を確認するだけでなく、施設の被害状況も合わせて確認する。
依頼主等への連絡
貨物の正常な輸送が行えない場合には、依頼主や荷受人にその旨を速やかに連絡する。
このことは、顧客等との間の信頼関係を維持するためにも重要である。
依頼主等が、貨物の滅失、毀損または所在不明の事実を知れば、その貨物を利用して行おうとしていた経済活動について、必要な代替措置をとることができ、その結果、派生的な損害の拡大を防ぐことにもつながる。
行政機関への通報・報告
発生した事件や事故の内容によっては、警察・消防等に通報する。
さらに、関連行政機関への通報が法令等により定められている場合がある。
例:車両による運送事業者については、自動車事故報告規則(昭和26年12月20日運輸省令第104号)や自動車運送事業者等が引き起こした社会的影響が大きい事故の速報に関する告示(平成21年11月20日国土交通省啓示第1224号)により、規定された事故(積載物の漏洩なども含まれ、いわゆる交通事故の場合に限られていない)が発生した場合には、所定の方法で国土交通大臣に報告しなければならない
とくに重要性、緊急性が高いケースについては、電話、ファクシミリ装置その他適当な方法により、24時間以内においてできる限り速やかに、その自己の概要を運輸管理部長または運輸支局長に速報しなければならない。
この速報については、管轄の地方運輸支局ごとに「自動車運送事業者等用緊急時対応マニュアル」が作成されており、事業所等のわかりやすい場所に備え付ける。
事実経過の調査
初動対応の後に、改めて事件・事故の経緯、原因を調査する。
貨物の輸送ができなくなった原因によっては、運送事業者の依頼主等に対する責任を免れることがある。
後日発生した損害の賠償について争いが生じた場合に備えるという観点からは、裁判において十分な主張と立証ができるレベルで行えているかという意識をもって、原因調査にあたる必要がある。
代替輸送手段の手配
輸送手段が絶たれたために輸送不能となった場合には、輸送を再開することが債務不履行を解消するための最も良い方法であるとともに、顧客満足の点からも望ましいため、代替輸送手段を検討する。
自然災害に関するリスク
ここでは自然災害に関するリスクについて解説していく。
自然災害による業務の支障とその対応
地震により、広い地域に甚大な被害が生じると、場合により、業務を中断せざるを得ない状況となり、極端な状況では、事業の継続が困難となることも考えられる。
また、地震などの自然災害が発生すると、公共交通機関のマヒにより、従業員の出勤や帰宅が困難になるなどの事態が発生する。
中長期的なリスクとしては、事業が長期間にわたって再開できず、業績悪化に陥ることや、操業停止による商品等の市場への供給が停止したために、取引先の自社に対する信用や社会的信用を失うことなどが考えられる。
二次災害の防止装置
建物の倒壊、ガス漏れや火災発生の可能性など、事業所が危険な状態にあると懸念される場合には、従業員及び顧客を安全な場所に退避させるとともに、応急措置や初期消火、警察・消防への通報を行う必要がある。
危機管理体制への移行
大規模自然災害などが発生した場合には、平常時における体制では危機的状況を脱することが困難である。
そのため、危機的状況における体制に移行する必要がある。
危機的状況を想定した「リスク管理計画(「危機管理計画」)が定めてある場合は、その計画に従って事態に対応する。
ただし、状況によっては、すべてが計画通りには機能しないことを心にとどめておくべきである。
一般に、こうしたリスクが発生した直後は、通常の連絡手段が機能しているとは限らない。
また、事前にリスク管理担当者を決めていたとしても、その者がどのような状況に置かれているか不明であることが多い。
そのため、担当者が上長やリスク管理担当者からの指示を待たずに個別に行動することができるように、緊急事態発生時における危機管理体制への移行にあたっての基準は、例えば、「震度6以上の地震が発生した場合」や「台風等により風速25m以上となることが予想されている場合」など、客観的な情報に基づくものであることが必要である。
また、この基準はすべての部下に周知しておく必要がある。
従業員の安否確認
安否確認チームを組織して、従業員やその家族、関係者の安否確認を行う必要がある。
安否確認がとれない従業員については、チームの構成員を派遣して直接安否確認を行うことが必要な場面がある、
災害が発生した直後には、通常の通信手段が使用できるという保証はない。
固定電話・携帯電話のいずれも通信制限がなされる場合があり、つながらない可能性は十分にある。
また、仮に通話が可能であったとしても、通話により短時間に多くの従業員の安否確認を行うことは困難である。
これに対し携帯電話の電子メールなどは、緊急時においても比較的機能するといわれている。
マネジャーの多くは、緊急連絡先として電話番号を指定しているが、そのほかにメールアドレスを指定しておくことも有効である。
また、各種伝言サービスの確認も必要である。
例:NTTが提供している災害時に電話番号あてに伝言を残すことができる災害用伝言ダイヤル(171)
このほかに、電話番号を宛先に指定し、インターネットの通信回線を通じて文字の他に音声、動画および静止画を伝言として投稿できる災害用ブロードバンド伝言板(web171)もある。
これらによって収集した安否情報は1か所に集約して確実に記録する。
リスク発生時は、担当部署では混乱が生じがちだが、通信手段が十分に機能しない状態で、相手に連絡をとることは非常に困難である。
したがって、記録漏れや紛失がないよう、安否の確認情報の記録を徹底する必要がある。
被害状況の確認
安否確認と並行して、組織の設備や商品等の損害状況の確認を行う。
この際、確認にあたる者の安全に十分な配慮が必要である。
もし危険な状態であることがわかった場合には、消防等、関連機関への通報を行う。
また、これとあわせて交通やライフラインの状況も、テレビ、ラジオ、インターネット等から入手し、社内に向けて伝達する。
被害の復旧・通常業務への復帰
自然災害が過ぎ去り状況が安定してきたら、緊急時の体制から平常時への態勢への復帰を目指す。
復旧に際しては、計画を立てて優先順位を設定する。
中核となる事業や、ボトルネックとなる要素から優先的に復旧していくことになる。
対外的情報開示と顧客対応
組織の状況について、対外的に情報開示を行う必要がある。
情報開示を行う対象としては、一般顧客、取引先、官公庁・自治体等、マスコミなどが考えられる。
取引先に対しては営業部門が対応に当たるなど、顧客対応という観点も含めて担当部署を決めて対応する。
また、相手方の被災状況も党組織の事業の継続運用との関係で大きな影響を与えてくるため、情報収集に努める必要がある。
また、SNSの普及により容易に出回るようになったデマやチェーンメール等の誤情報を発見した場合は、ただちに修正情報を提供する必要がある。
リスク管理計画・事業継続計画の見直し
緊急時の初動段階において適切な行動をとるためには、平常時において「リスク管理計画(危機管理計画)」や「事業継続計画」を策定することが求められる。
その内容としては、危機管理対策本部の構成及び構築手順、連絡手段、被害に対する初期対応などを盛り込む必要がある。
また、策定したばかりのリスク管理計画は、現実にそぐわない点もある可能性がある。
定期的な訓練を実施し、PDCAサイクルを活用して、新たな改善点を検証・検討してリスク管理計画等の見直し・修正を行う。
教育および訓練
緊急時においては通常の指揮系統が機能しない可能性が高く、多くの場合、初期段階においては従業員が自己の判断で行動することが求められる。
そこで、前述のリスク管理計画を従業員にも周知した上で、定期的に訓練を行うなどしてその浸透を図る必要がある。
各リスク要因に対する個別対策
前述のリスク管理計画に基づいて、緊急用連絡手段の確保、防災設備の充実、事業確認の安全性向上、部品在庫の確保などを行う必要がある。
その具体的な内容は業種ごと、またリスクごとに異なるため、各部門の意見を聴いて十分洗い出しを行うようにすることが大切である。
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