第3章では以下の点について学んでいきます。
- コミュニケーションの基礎
- 会議の生産性を高めるコミュニケーション手法
- コミュニケーションに役立つ様々な理論や方法
コミュニケーションの基礎
まずはコミュニケーションの基礎について解説していく。
1-1. コミュニケーションの意味と重要性
マネジャーは上司や部下、あるいは他の部署のマネジャー、取引先などとの間で、「適切な」コミュニケーションをとることが求められる。
また、人と人との間にコミュニケーションが成立したといえるためには、単に知覚・感情・思考などを伝達し合うだけでは足りない。
人と人との間でお互いにそれぞれの気持ちや考えを理解し共有することが必要である。
心理学的には、コミュニケーション行動は、情報の伝達のみならず、共感という情動的側面や、それによる行動制御など幅広い意味を持つ。
とくに、人と人とのコミュニケーションの場合は、自己の心的状態などを相手に伝達し働きかけることにとどまらず、相手から発信された情報を受け取ることにより相手を理解し、共感することを含む。
マネジャーは、チームの責任者であり、自分が部下の立場であったときと比べると、コミュニケーションをとる相手が格段に増える。
業務を遂行する上で重要な役割を担うのが、お互いを理解し、共通の認識に至るためのコミュニケーションである。
1-2. コミュニケーションの基本姿勢(言葉だけに頼らないコミュニケーション)
コミュニケーションには以下2つの種類がある。
- 言葉によるコミュニケーション
- 「話し方」や「表情」・「動作」といった言葉以外の要素によるコミュニケーション
ここでは、言葉以外の要素がコミュニケーションに与える影響の大きさを紹介していく。
バーバルコミュニケーションとノンバーバルコミュニケーション
「バーバルコミュニケーション(Verbal Communication)」とは、言葉を使って自分の意志、考え、感情などの情報を伝えること、および文字を書くことによってそれらの情報を伝えることをいう。
一方、「ノンバーバルコミュニケーション(Non-Verbal Communication)」とは、言語以外の方法によりコミュニケーションを図ることをいう。
頭文字をとって「NVC」と言われることもある。
NVCは「態度」「表情」「目の動き」「声色」「動作」などの言語以外の手段によるコミュニケーションであり、人間に限らず多くの動物も行うコミュニケーション方法である。
NVCは直接的な表現ではないが、情報の発信者の表情や動作が、情報の受け手の完成に大きな影響を与えるという特徴がある。
ノンバーバルコミュニケーションの重要性(メラビアンの実験)
アメリカの心理学者であるアルバート・メラビアンが、人が相手からの情報として読み取る要素を「言語」「聴覚」および「視覚」の3種類に分類し、その割合を実験したところ、次のような結果が得られた。
言語(言葉の意味):7%
聴覚(声の大きさや質、話し方):38%
視覚(見た目、表情、動作など):55%
情報の受け手が判断する基準として、情報発信者の言葉の内容は7%にすぎず、93%は声の大きさや話し方、身だしなみや話す表情・動作といった感覚的要素であったという結果である。
この結果によると、コミュニケーションには言語情報(Verbal)だけではなく、聴覚情報(Vocal)および視覚情報(Visual)も重要であることを示していると考えられる。
ノンバーバルコミュニケーションの実践
ノンバーバルコミュニケーションは大きく次の4つに分類される。
普段からこれらを意識することによりコミュニケーション能力は確実に高まる。
パーソナル・スペース
他人に近づかれると不快に感じる空間のことであり、相手との角度・距離・視線の高さなどが関係する。
部下と1対1で話をする際に、安心感を持ってもらいたい場合の対応例
- お互い正面に向かい合うのではなく、部下と自分との角度を90度くらいにする
- 遠からず近からずの適度な距離を置く
- 上から目線にならないよう視線の高さを同じにする
セルフ・プレゼンテーション
髪型や衣服、アクセサリー、化粧や香水など、見た目を指す。
マネジャーになると、いつも部下や周りから見られていることを意識し、信頼に値するような見た目を心がけるべきである。
ボディー・ランゲージ
表情・アイコンタクトや態度、身振り手振りのジャスチャーなどを指す。
普段の何気ない表情や態度、歩き方や姿勢などから、多くのメッセージを周りの人に発信しているのである。
話し手の表情は「言外の意思表示」といわれるほど強い印象を聞き手に与える。
自分の何気ない表情が相手に不快感や不安感を与えていないか、また自分のどのような表情が相手に好感を与えるのかをよく心得ておくことが必要である。
パラ・ランゲージ
パラ(para)には、本来「近い」や「補助的な」といった意味がある。
パラ・ランゲージは、話をするときの声の大きさや高低、調子やスピードのことであり、「周辺言語」や「言語外言語」と呼ばれることもある。
言葉の内容がいかに論理性を持っていても、話し手の声の調子や大きさ、声のトーンや明瞭性によって聞き手の受ける印象は大きく異なるため、状況に応じて工夫をすることが大切である。
リモートワーク実施時のコミュニケーション
新型コロナウイルスの感染拡大により、自宅やホテルで仕事をする人も増えてきた。
ここでは、リモートワーク実施時のコミュニケーションについて解説していく。
リモートワークの意味、利点と課題
リモートワークは「ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」(厚生労働省・総務省)を指す。
リモートワークには次のような種類がある。
在宅勤務:労働者が自宅において業務に従事する働き方
モバイルワーク:労働者が、顧客先・移動中・出張中における宿泊先・交通機関の車内・喫茶店などで、ノートパソコン・スマートフォンなどを利用して会社と情報のやり取りをしつつ業務に従事する働き方
サテライトオフィス勤務:労働者が属する部署のあるオフィスとは別の小規模なオフィスやレンタルスペースなど作業環境の整った場所で業務に従事する働き方
オフィスへの出勤の必要がないリモートワークでは、通勤に伴うコストの削減への寄与、育児や家族の介護に携わる労働者の継続雇用の可能性の拡大、ワーク・ライフ・バランス(第13章第4節参照)の実現への寄与といった多くの利点がある。
リモートワークにおけるコミュニケーション
リモートワークにおけるコミュニケーションは、一般に、電話やインターネットを活用したコミュニケーションツールなどを利用して行われる。
これらは、画像と音声の組み合わせにより行われる。
コミュニケーションをする上では、言語によらないコミュニケーション(NVC)が重要だが、リモートワークにおいて用いられるツールによるコミュニケーションでは、言語野文章以外の情報が不足してしまうことに注意が必要である。
「雑談」が大事
ビジネスにおこえるコミュニケーションには、必ずしも業務に直結しない対話である雑談も含まれる。
業務に支障をきたさない程度の雑談は、チームメンバー同士の信頼関係を強固にしてより円滑な業務遂行に役立つことがある。
例えば新入社員や職歴の浅いチームメンバーは、組織文化や業務の進め方などに十分習熟しているわけではない。
ほかのチームメンバーとの信頼関係も十分に構築できていない。
そのような場合、ベテランメンバーやマネジャーとの間の雑談を通じて、業務上の疑問を解消したり、その組織の文化を理解したりすることが大切である。
コミュニケーションの5つのポイント
マネジャーは多方面で色々な立場の人とコミュニケーションを図り業務を遂行しなければならない。
そこで、次の①~⑤のポイントをチェックし、自分のコミュニケーションを省みてほしい。
- 人と話をするとき、同じ日本語という共通言語で話をしているのだから、相手は自分の説明内容を基本的に理解してくれていると思っていないか?
→同じ言語であっても、経験の違いにより話の理解度は大きく左右される。
話の途中で質問を挟むことにより、相手の理解度を判断しながら話を進めることが大切。 - 自分の話を相手が黙って聞いてくれるので、自分は話し上手だと思っていないか
→人は、相手の話の内容がわからなくなったり、興味がもてなくなったりすると沈黙する傾向にある。
相手が自分の話に対して適度に質問をしたり、意見を述べたりすることができているかどうかを見極める - 相手の話を、発言が終わるまでよく聞き、相槌を売ったり、建設的な質問をしたりしているか
→「聞き上手は話し上手」。コミュニケーションは双方向の意思の伝達が前提であることを忘れない - 発言者から意見を求められたとき、賛否だけを言ったり、「とくに意見はない」と答えたりしていないか
→発言者は、自分の話す内容が相手に理解されているか気になるものである。そんな時単に「賛成」「反対」「特になし」だけではコミュニケーションは成立しない。具体的に、発言内容を指摘しつつ、補足質問や自分の意見を言うこと - 発言者の発言を途中で遮り、自分で発言者の結論を指摘したり、質問もないのに先行して意見を言ったりしていないか
→会話は、互いの話を聞き意見を出し合うことで成立する。しかしそこには相手の判断や見解を聞き、次に自分の意見を言うという一定のルールがある。
発言を遮って自分の意見を一方的に述べることは、発言者に不快の念を生じさせコミュニケーションは失敗する
1-4. マネジャーに求められるコミュニケーション能力
ここでは、マネジャーに求められるコミュニケーション能力について解説していく。
相手を信頼し、相手の信頼を獲得する能力
コミュニケーションが成立するには、必ず相手が必要である。
情報の内容を発するだけでは、コミュニケーションは成立しない。
まずは相手を信頼し、信頼していることを相手に理解してもらうことからコミュニケーションはスタートする。
そのためには、相手の立場を理解し、認めることが必要である。
人は、自分という存在を承認してもらいたいという承認の欲求(Need for Approval)を持っている。
そのため、自分が社会的な存在として承認を受けることによって、初めて有効なコミュニケーションへと発展していく。
とくに初対面の相手については、入手可能な情報の範囲内で、相手の社会的立場や専門分野、あるいは業務等の実績を知っておけば、相手に根拠ある信頼感を示すことが可能となる。
「挨拶」の心理的効果
挨拶は人の心理にきわめて重要な意味を持つ行為である。
人は誰しも自分を認めてほしい(Need for Approval)とか、自分を社会的存在として認めてほしい(Need for Social Approval)という承認の欲求を持っている。
したがって、挨拶を交互にかわすということは、互いに相手を認め、一緒に仕事をするチームの一員であるという承認行動なのである。
相手から共感を得る能力
相手との円滑なコミュニケーションを図るためには、相手からの共感を得る必要がある。
相手の共感を得るためには、相手に説明や提案を聞いてもらうことが前提となる。
したがって、コミュニケーションを図る際には、相手が理解できる言葉・表現を使うように心がけることが大切である。
相手の納得を得る能力
人は、他者とコミュニケーションをしているとき、自分が期待しているものだけを知覚するという傾向がある。
したがって、相手に納得してもらうためには、相手の期待するものを理解した上で、内容の提案を適切に行うことが必要である。
しかし、マネジャーは、業務の必要上、部下の期待に反することを伝え、理解を促さなければならないこともある。
そのときは、まず、部下が何を期待しているかを知るようにする。
その上で、期待に反しているであろうことをあらかじめ伝え、注意喚起を促し、部下の理解を深めていく作業を繰り返し行わなければならない。
会議の生産性を高めるコミュニケーション手法
業務は複数人によって進められるものであり、それらの者の間で必要な情報を共有したり合意形成をする上で会議は必要不可欠である。
しかし、マネジャーとチームメンバー、あるいはメンバー間でお互いに伝えたい内容を正確に相手に伝えることは、実際には容易なことではない。
メンバー全員が主体的に会議に参加し、相互に理解できる表現方法を用いることなどによって、会議の生産性を高めることが必要である。
会議を円滑にするアイスブレイク
業務によっては、オタ肺に初対面に人同士で集まって会議を行うこともある。
普段あまり交流のないメンバーが集まる会議などにおいて、コミュニケーションを図りやすい雰囲気をつくって積極的な意見・発言ができるようにするために、参加メンバーの緊張をほぐして気持ちを和らげるための手法を「アイスブレイク」という。
例として、次のような自己紹介の方法をとると、メンバーの名前や人となりをより早く知ることができる。
- 他己紹介
近くの人と2人一組になってお互いに自己紹介をした後、全員に向かって組になった相手のことを紹介する。みんなに紹介する必要があるため相手へのインタビューを真剣に行うし、相手にも自分のことを詳しく話そうとするようになる。 - リレー式自己紹介
10人程度までの会議であれば、参加者の名前をより確実に記憶にとどめられる方法である。
まず自己紹介を始める順番を決め、最初の人から順に自己紹介をする。2番目の人は「〇〇さんの隣の△△です。」と自己紹介をし、3番目の人は「〇〇さんの隣の△△さんの隣の□□です。」というように順番に自己紹介をしていく。最後の方になるにつれて名前を覚えるのが大変になるが、参加者の名前をより確実に覚えることができる。
2-1. 会議のマネジメントの基本
マネジャーは、会議を開催するに際して、目的と求める成果を明確に定め、参加メンバーに周知する。
周知する方法は様々だが、1つの方法として「アジェンダ」の交付が挙げられる。
アジェンダ:会議における検討課題等を簡潔に書いた書面
会議は、開始時刻と終了時刻を厳守するようにする。
会議が適切に運営されないと、以下のような弊害が生じる。
- 参加者の目的や意識が統一されない
- 声の大きい人や、立場の強い人の発言の場と化す
- 議事内容が整理されておらずブレる
- 安易に妥協しようとする
- 結論があいまいなまま会議が終わる
2-2. ファシリテーターの役割と心構え
「ファシリテーター(facilitator)」とは、会議において、会議の中立的な進行・推進役のことをいう。
ファシリテーターは、会議の参加者に対して適切な支援を行い、会議の所期の目的を達成するように努める。
具体的役割は以下の通り。
1. 会議のゴールを示すこと
会議の冒頭に「目的」を明確に示す。
例えば、「A案とB案のどちらにするか決めること」なのか、「意見を出し合うこと」なのか、目的を具体的に説明する必要がある。
また、終了時間をあらかじめ伝えることも大切である。
2. 会議での発言が安心かつ健全にできる場をつくること
ファシリテーターは、発言の内容に対して中立の立場を貫くことが必要である。
人の話を積極的に聴き、ほかのメンバーにもそうするように求める。
また、メンバー個人とメンバーの発言が攻撃されたり無視されたりすることのないように保護し、健全な討論の場を確保する。
3. 会議参加者の自由な対話・意見が出るように配慮し参加意欲を引き出す
ファシリテーターは、会議参加者の参加意欲を引き出すために、発言者が偏らないように配慮する。
また、メンバー同士の話し合いを促し、グループ作業に適した体制とプロセスを構築する必要がある。
さらに、進んで参加者の意見の相違を歓迎する配慮が必要である。
4. 会議の収束を支援し合意形成を行う
ファシリテーターは、ホワイトボード等を活用して会議出席者の発言を記録し、整理し、要約する。
そして会議により形成される意思決定やコンセンサスに向かう道筋を示す。
ファシリテーターは、これらの役割を的確に果たすために、議論に入ることなく、場の状態と推移を見守り、必要に応じて介入することで、安心かつ健全に話し合いのできる場をつくり、最大の成果を生み出すことを心掛ける。
具体的には以下のような点に留意して実行する。
1. 客観的立場に自分を置く
内容や議論に一緒に入り込むと、主張したいことや納得してもらうことに必死になるあまり、周りで起こっていることが見えにくくなる。
2. 参加者・話し合いの当事者を主役にする
主体性をもって話し合ってもらうためには、参加者を主役にしなければならない。
とくにマネジャーが前に出すぎると、「発言しにくい」「自由にできない」「気を遣う」などの感情を抱かせてしまう。
効率を重視するのではなく、議論が深まるように心がける。
3. 参加者と議論の状態を把握する
参加者の表情や雰囲気から、不満げな人、発言したい人、場に参加できていない人などを把握する。
あわせて、議論の状態として、会議の目的に向かって話が進んでいるか、脇道に逸れていないかを把握する。
2-3. 会議の内容を確認し次のアクションに活かす議事録の活用
会議を開催したら、議事録を作成する。
1. 議事録の役割
議事録は、会議の内容や会議で決定された事項などを記録するものである。
組織内での会議だけでなく、顧客との間の打ち合わせ・ミーティングにおいても作成され、次に示すように重要な役割を持っている。
責任の所在を明確にする
議事録の役割として、会議で決定された事項の責任の所在を明確にすることが挙げられる。
例:顧客との間で合意された事項が履行されずに後にトラブルが生じた場合、いかなる合意がなされていたかを議事録で確認することで責任の有無が明らかになる
また、組織内でのプロジェクト会議等において、進めるべき業務とその担当者、スケジュールが確認された場合に、議事録にそれらを記録しておくことも有用である。
会議に参加していない者との間の情報共有
会議に参加していない人に対し、議事録によって会議での決定事項等を知らせることができる。
また、顧客との打ち合わせの結果などを議事録によって上司に報告することもある。
2. 議事録を作成するにあたっての留意点
議事録を作成する際に最も重要なことは読み手を意識することである。
議事録を読む人が、その会議の要諦を短時間で確認できるように簡潔かつ正確な内容にする必要がある。
議事録記載事項(例)
- 会議名
- 会議の目的
- 参加メンバー
- 日時・場所
- 会議によって決定された結論
- 会議後に実施すべき事項
- 議論の内容
- (必要に応じて)次回の会議の予定
また、遠隔にある拠点のメンバーやリモートワーク中のメンバーとの間で会議を実施する場合、オンライン形式で実施することがある、
オンライン会議には様々なメリットがある一方で、注意を要することもある。
たとえば、オンライン会議はインターネットが接続できる場所であればどこにいても参加できることから、会議の内容が周囲に聞こえてしまう可能性がある。
会議の内容は、会議の参加者以外の人に知られてはいけないものであることが通常である。
オンライン会議の参加者は、その内容が部外者に聞かれない場所にいることを確認する必要がある。
パソコン等のカメラを使用して会議をする場合は、部外者などがカメラに映りこんでいないかを確認する。
また、オンライン会議では、発言者以外の参加者は音声をミュートにするなどしてほかのメンバーの発言の邪魔にならないようにする。
さらに、オンライン会議を行うためのツールには様々なものがあり、その機能や仕組みはツールによって異なる。
オンライン会議に使用するツールを選定する際には、インターネット回線を通じて伝達される情報が暗号化されているかなど、情報セキュリティリスクには十分な注意が必要である。
3. コミュニケーションに役立つ様々な理論や方法
マネジャーが、適切かつ効率的なコミュニケーションを図り、効率的なミーティングを成立させるのに役立つ様々な理論がある。
ここでは、その主なものを紹介します。
3-1. EQ理論(Emotional Intelligence Quotient)
自分や相手の感情の働きを理解し、感情を適切にコントロールする能力であり、「こころの知能指数」あるいは「情動の知能指数」といわれる。
1989年にアメリカの心理学者であるピーター・サロベイ(Peter Salovey)とジョン・メイヤー(John Mayer)によって提唱された。
EQ理論は、人間の思考、判断、対人関係などにおけるあらゆる言動は、その時々における自己の感情の状態に大きな影響を受け、また、問題解決のために適切な判断をし最善の行動をとるためには、感情は不可欠であるとしている。
そして、適切な感情活用を行えば、意図する目標や成果を得るために適切な思考・行動・態度をとることができると提唱している。
EQ理論では以下の4つの能力の使い方を提唱し、また、弱いエリアを強化することで、人間関係を円滑に運用できるようになることを目的としている。
3-2. エゴグラム(Egogram)
アメリカの心理学者エリック・バーン(Eric Berne)による人間関係の心理学理論「交流分析」(Transactional Analysis: TA)に基づき、ジョン・デュセイ(John Dusay)が考案した性格診断法である。
エゴグラムは、人の心を5つの領域(CP, NP, A, FC, AC)に分類し、その5つの心理状態が、それぞれ人間の交流や行動においてどのように表れるかを分析するものである。
エゴグラムを活用し、自己と周囲の人間の心の特性・行動特性を分析し、普段のコミュニケーションの傾向を把握することができるとされている。
交流分析では人の心の特性を「Parent (P)」、「Adult (A)」、「Child (C)」の3つに分類している。
P: 親のような心。面倒を見る・叱るなどといった行動を起こさせる心の特性
A: 大人のような心。感情に流されず、情報を論理的、客観的に整理して、適切な行動を判断するといった特性
C: 子供のような心。無邪気に遊んだり、人からの指摘に気分を害したりといった、子供のころに感じていたようなことを感じているとき、心はこのCの状態にある
エゴグラムでは、これらを組み合わせて5つの人の心の特性を説明する。
- 正義感、責任感のあるタイプ(Controlling Parent(CP)):リーダー的な性格、強い正義感を有する。他人への接し方において、「~するべきだ」と批判的な態度をとる傾向がある
- やさしさ、寛容性のあるタイプ(Nurturing Parent(NP)):面倒見の良い性格、親切心を有し、他人への接し方において、思いやりや温かみのある許容的・保護的な態度を示す傾向がある
- 論理性、理性、現実指向性のあるタイプ(Adult(A)): 理性的な性格、優れた判断力、落ち着き、自信を有し、客観的事実を重視し、自分の感情を適切に制御できるといった傾向がある
- 直観力、創造性、表現力のあるタイプ(Free Child(FC)): 闊達な性格、感情の自由な表現、創造性、健康的で活動的といった傾向がある
- 協調性、忍耐力のあるタイプ(Adapted Child(AC)): 協調性が高く、受け身的で、行儀よくふるまい、絶えず周囲に気兼ねし、その期待に応えようと努力する傾向がある
エゴグラムを使うことにより、人の心の特性と、そこから生じる行動特性を可視化できるようになる。
そして、心の傾向 = 行動傾向を認識することで、これらを状況に応じ適切な状態に改善する手がかりとすることができる。
3-3. ソーシャルスタイル理論
ソーシャルスタイル理論は、アメリカの産業心理学者デヴィッド・メリル(David Merrill)とロジャー・リード(Roger Reid)によって提唱されたコミュニケーション理論である。
社会における人間の言動に着目し、人間はアサーティブネス(自己主張)とレスポンシブネス(感情表出)という2つの軸によって、アナリティカル、エミアブル、エクスプレッシブ、ドライビングの4つのパターンに分けることができるとした。
・アナリティカル:客観的、冷静、慎重。事実や正確さを大切にする。会議での発言は少ない
・エミアブル:共感上手、協調派、全体の調和を重視。自己主張しない傾向
・ドライビング:典型的なタスク志向の目標達成型。結果を重視。口数が少ない
・エクスプレッシブ:社交的、表現が豊か。新しいアイディア、自発的な行動
ソーシャルスタイルは、相手や状況により、強味にも弱みにもなる。
まずは自分のソーシャルスタイルはどれに該当するのかを知ることが大切である。
自分のソーシャルスタイルが弱みになる状況で、自分のスタイルの傾向を抑制するように注意することで、コミュニケーションの悪化を回避できる可能性が高まる。
自分のソーシャルスタイルを把握したうえで、相手のソーシャルスタイルが分かれば、例えばこれまで「辛辣な話し方をする人だ」と苦手意識を感じていた相手のソーシャルスタイルが「ドライビング」であり、単にその相手は事実を単刀直入に述べようとしていただけといったことが理解できるようになる。
このように、相手を理解し、相手との良好な関係を築くために、ソーシャルスタイル理論は有効な知識となる。
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